NA.home通信 433号
11.Jun.2017

 15才で入った事務所には二人先輩がいた。一人は住み込みで夜間高校四年のK君、もう一人は専門学校入学直前、アルバイトのH君、二人とも3級上だ。
 H君は学校が始まると来なくなるが、夏休みに戻ってきた。僕ら夜学生も学校が無い。5時に仕事を終えると事務所の軽トラをK君が運転、H君は自分の原付で内海に海水浴に行く。
 夕日が沈むまで泳いだあとは、豊浜でご飯を食べる。名物のエビフライと刺身、ご飯と味噌汁で800円くらいだった。夏の間、3回ほど楽しんだ。

 K君は、大学進学に建築を選ばず、冬に去って行った。そこからは一人。所長はほとんど外出している。寂しいなか、休みの度復帰するH君が救いだった。
 2年の専門学校を終えると、正式に所員になった。フルで働けるH君に対してその後6年間夜学生活を続けた私は、毎日早上がりで申し訳なかった。
 2級建築士、1級建築士とも一発合格するH君。負けるわけにはいかない。2年後私も1級建築士一発合格して面目を保った。そのころは、事務所に後輩が入り、仕事も充実していた。
 独立は私が先。H君は1年遅れて開業した。二人で組んで仕事したことも何度かあった。しかし、10年ほど頑張ったが、H君は看板を下ろし、地元の建設会社に入った。そこからは少しずつ疎遠になってしまった。
 
 そのH君を先日天国へ見送った。65才、早すぎる。これから楽しもうと思ったのに。彼の人生と言えばそれまでだが、私がマイナスの方へ引っ張ったのではないかと心が痛む。
 修業時代、たくさん支えてもらった。そのお礼も出来ぬままだ。
 何人も仲間を失い、自分の幕引きが遠くないことを知った今、何が出来るか、何を残せるか、先人達への感謝をどう形にするか、それを考える日々である。

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