NA.home通信 405号
11.Oct.2015

 なぜ屋根に登るタラップが出隅に付いているのだ、それも方流れ屋根の頂点。左下はコンクリートの道、10m以上ある。
 上だけ見て登ると、途中排気口から生ぬるい風が顔の右側を吹き付け、強引に左下に顔を向けさせられる。
 最上段まで来るとその上に手掛けがない。屋根の上を手探りするが、さわる場所は平で指がかからない。グイと手を伸ばすと幅の広い笠木の角を見つけた。指をかけて登るが、左は何もないので、右足を屋根の上に上げないといけない。
 何でこんな危ない場所にタラップを付けたんだ。設計者出てこい!。
 文化施設の屋根に大規模な太陽光発電を載っける。その下調べに屋根に登る必要があった。高所恐怖症では出来ない仕事だ。
 
 修業時代、足場で強風に吹かれ、高いところが怖くなった。
 18年後、なぜかグァムでバンジージャンプ台に登っていた。高さ18m、床はエキスパンドメタル、金網である。このジャンプ台は震災の影響で閉鎖し、売りに出ていたのを、買うかもしれないお客と視察に来た。
 体験するからビデオを撮って欲しいと言う。手摺から手が離せないのに、始めて触るカメラを18m上空で渡されて震えた手で撮れるはずもなく、見事撮影失敗。
 
 結局グァムの中古は買わず、新品をアメリカから輸入した。
 日本初上陸のバンジーは大ヒット。各地に建てることになったおかげで何度も金網の床のジャンプ台に登るはめになった。
 
 既存の塔にジャンプのウィングだけ付ける仕事があった。英語とインチで描かれた図面を翻訳し取付のプレートを指示したが、現場確認は必須である。
 建物の屋上に突き出た塔、外付け階段は施工中。途中から手摺もなくなり骨だけになる。高さは30mを超える。取付のデッキも半分の出来、そこに寝転がって手と頭を出し計測確認する。下は固い駐車場だ。
 間違いなし。ホッとして立ち上がり気付いたものは、大きな琵琶湖の雄大な景色と、高所恐怖症の治った私だった。

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