NA.home通信 402号
9.Aug.2015

 職業の呼び名で「お」と「さん」が付くもの、たとえば「お医者さん」「お坊さん」「おまわりさん」それと「お相撲さん」。大衆に馴染んだ呼び名である。仕事の説明が要らない。
 一言で表せる職業、なんか格好いい。「弁護士です」「保育士です」説明は不要、仕事内容を聞き返す人はいないだろう。
 建築業界では「大工」「左官」「鳶」、昔からある職種。驚くことに仕事内容を示す字が使われていないのに認知されている。「鳶」=高所作業員、「大工」=木工事職人、無理矢理ほかの言い回しを考えても「左官」?=湿式建材鏝塗職人、よけい意味がわからない。左官は左官である。
 
 「師」が付く職業もある。朝ドラで今評判の「塗師」、漆塗り職人である。
 「美容師」「理容師」技術を認められ、公的に与えられた資格でありながら、職業の名前と一致する。「調理師」は資格名で職名は「コックさん」「板前さん」、ここでも「さん」が出てきた。「シェフ」はフランス語で「チーフ」の意味だから料理人を指す言葉ではない。
 「さん」は尊敬と敬愛の意味が含まれている。
 
 悲しい現実だが、私の仕事「建築設計」にこういう愛称的な名前がない。
 「建築家」と称しても、所長だけでスタッフの一員まで指さないし、「建築士」は資格名で、現場監督やっている人も検査員の人もいる。「美容師」のように資格名=職業名ではない。
 西洋では「アーキテクト」=アーチを架ける人、という意味で紀元前からある職業である。建築は「アーキテクチャー」、「アーキテクト」が居なければこの言葉さえない。中国では「建築師」と呼ばれ、かなりの権威を持つ。なぜ日本には名前さえない。「設計士」と言う人もいるが、機械設計などもあるので相応しくない。
 
 できりゃ最上級の「お」と「さん」がつけられるのが良い。何が良い?建物をデザインするので「お間取りさん」イマイチだ。「お設計さん」、お節介みたいでやっぱりダメだ。

HOME   LIST    401号   403号