NA.home通信 379号
6.apr.2014

 先日、お寺の本堂を耐震調査した。
 最大の難所は小屋裏の調査、棟の高さを計測しなければならない。3m以上ある格天井の一角を開け、ハシゴで上がる。カメラやスケールなどはポケットに入るが、高さを測るスタッフ(箱尺=高低測量で使う道具)、ペーパーホルダーとライトは持って上がる。道具を梁の上に置いて、大きな丸太の梁を潜ったり跨いだりして超え、また道具を前に運ぶ、その繰り返しで建物の中心まで進む。
 下は天井板一枚、踏み抜いたらヤバい。でもそんな危険は感じないのは大きな梁の存在感であろう。怖い経験はほかにある。
 10年以上前の話。武豊の火薬工場の事務所、大正2年の近代建築である。
 戦後増築した部分が水路の際まで建っていて湿気が多く沈下している。案の定、腰板はシロアリにやられ指で穴が開く。腰板の上は天井も漆喰塗り、下地の木摺も喰われているようだ。2階梁はおそらく松材、シロアリの好物である。そこまで登られると被害は甚大になる。
 漆喰の天井は開けられないので、2階の床をめくることにした。二重張してあるナラの床に穴を開け、床梁が出てきた。
 梁の横腹にバールを軽く突き刺すとズボッと5〜6センチ刺さった。それを見た瞬間血の気が引いた。大人4人乗っている床の梁は強度を無くし、漆喰の天井と二重張りの床板で中空スラブのようになって支えているに過ぎない。それに気付いた瞬間崩れ落ちたとすればマンガであるが、そうならないよう静かに2階から立ち去った。
 歴史的建造物だから、残したい一心で改修提案をしっかり作って提出したが、結果解体された。
 
 もう一つの恐怖体験は、住宅の天井裏、ライトで照らした断熱材の表面に「日本アスベスト株式会社」と書いてあったことか。これは怖い。
 耐震診断でいろいろな経験をさせてもらった。もうネズミの死骸や蛇の抜け殻くらいでは驚かない。

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