NA.home通信 365号
9.jun.2013

 美術館の建物全体が一つのアート。下世話な言い方だと美術館に拝観料払って見られる作品が一つ。その一つの作品を見るために片道一時間の船に乗る。
 
 豊島(てしま)は昔宇高連絡船が出ていた岡山県宇野港と小豆島の間にある。船の本数が少なく、10時発のフェリーに乗って、2時50分の高速船で帰ってくる以外選択肢がない。やむなく宇野港から30分以内のホテルに泊まり、二日目に豊島へ行く行程を組んだ。
 美術館に近い唐櫃(からと)港で船を下り、靴のひもを締めて坂道を登る。途中雨が振りだし傘を差して登る。一汗かいたところで千枚田が見えてきた。景色も開ける。千枚田の上に目指す豊島美術館はあった。
 入館料は1500円、荷物をロッカーに預けると、小物入れのビニール手提げと汗ふきのタオルを貸してくれた。
 丘を回り込むように入口まで傘を差して歩く。人数制限で少し待たされ、外人さんのグループが出たところで入れてくれた。
 靴を脱いではいる。驚くことに20人以上居る。国際色が豊か。港から歩いたのは僕ら4人だけなのに何処から来たんだろう。
 
 設計者は西沢立衛氏、学生コンペの審査員長をお願いし、浩養園で一緒にビールを飲んだが世界的な建築家である。この美術館の話しも聞いたし、NHKの日曜美術館で紹介されていたので絶対見たい作品であった。
 コンクリート製の扁平なドームは思ったより広い。床から水がしみ出ていて、水玉が生き物のように動く。小雨が天井の穴から降り込み、つながって蛇のようにクネクネと床を這う。雨の止み間に陽が差し込むと床の水玉が銀色に光る。
 雨が降ったり止んだりの天気が幸いして特別な情景がみられたようだ。また季節や天候が変われば違った表情を見せるだろう。
 今度は歩いて登らずに行く。その方法はここでは教えない。
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