NA.home通信 364号
26.may.2013

 年下の亭主が女房の稼ぎで働きもせず昼間から酒を飲んでいる。
 愛情を確かめようとわざと倒れて、亭主が大事にしている壺を割ってしまう。
 それを見ていた亭主は壊れた壺にはかまわず、怪我はないかと心配する。愛情を確信した女房はうれしさのあまり泣き崩れる。
「そんなに私の体を心配してくれるのかい?」
「あたりめぇよ、怪我でもされたんじゃ遊んでて酒が飲めねぇ」
 
 落語「厩火事」のオチ、髪結いの亭主の噺である。現代でもこんな亭主はいくらでも居る。特にわが業界は多い。髪結い=美容師より看護師の亭主が多い。
 「建築士と看護婦(当時)は同時に出来た資格制度で、縁が深い」とはわが師匠の説。根拠があるようで全く関係ないと思う。
 
 図面描きの仕事は家でできる。景気の良い時代はいくらでも仕事はあった。家に居るので洗濯などは亭主の仕事で、事務所が物干場となっている。とても客は入れられない。
 我々の年代になれば奥さんは看護師長か主任で、結構な給料をもらってくる。この不景気で設計事務所はヒマで、子どもの世話も終了している。そうなると仕事をする気力も無くなる。
 私の妻も看護婦(昔)だった。幸か不幸か結婚を機に辞めた。設計事務所の安月給では家庭は維持できず、長女の誕生を機にイチかバチか独立開業した。以来30年、荒波を乗り越え何とか専業事務所として、妻の稼ぎを当てにすることなくやってこられた。ひとつ間違えれば私も髪結いの亭主になっていたかも。
 
 働く女性は珍しくない時代。稼ぎが大きい方が主になって、男でも家事をやればいい、という意見もある。だが男の本性は怠け者である。義務感がなければ働かない。いかに亭主を上手く働かせるか、その手綱加減が女房の手腕にかかっている。
 私の場合、安月給にもかかわらず、すっぱり仕事を辞めた妻に感謝か?
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