NA.home通信 356号
25.nov.2012

 建築基準法で地震力の基準は重さの0.2倍である。建物を1/5の勾配に傾けたと考えればよい。昭和56年の見直で2階より上に割増が付いたが、0.2は変わっていない。
 0.2(地震標準層せん断力係数という)はどれくらいの震度に相当するのか。地震は家を坂に傾けるような単純な揺れをしないので一概には言えないが、まあ震度5強である。建物が日本で建っている限り1度や2度は来そうな地震である。この程度の地震で被害が出ては困るのでこの基準になっている。
 
 「鉄筋コンクリートは地震に強いですか、鉄骨はどうですか」などと聞かれるが、0.2は構造で変わらないので「同じです」と答えるしかない。
 自社ビルを建てる社長さんが「ギリギリに設計してくれ」とは言わない「丈夫なビルを」と言うに決まっている。設計者は柱や梁をちょっと太くしたりして余裕のある設計をする。
 ところが貸しビルとか分譲マンションとか、工事費が直接経営に響く建物だとどうだろう。コストを抑えるよう要求が来るので、構造計算ギリギリの設計をする。いろんな手を使って経済的な設計をするのが優秀な構造設計者になる。その行き過ぎが姉歯事件なのである。
 
 0.2で設計するのは許容応力といって材料の弾性範囲、つまり元に戻る領域で設計する。だから震度5強では無被害でなくてはいけない。これ以上の揺れに対しては保障がない。だから余裕のある設計をしておきたいのだ。
 安全率といえば格好いいが、我々の間では「バカ率」と言う。100%解ったらこんな余裕は必要ない。解らない、つまり設計者がバカだから安全をみる。でもこういうバカが街を守っている。利口な連中の設計したものは…危ないかもしれない。
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