NA.home通信 355号
4.nov.2012

 家から通える大学−愛知県では良く聞くが、大学の少ない地方ではあり得ない。
 ある中央線沿線の大学の先生の話。薬学部を作ったら、他の学部に来ていた優秀な学生がそちらに流れた。中央線沿線で名古屋まで通うには遠い学生が来ているだけで、学部が増えたことでエリアの拡大はなく、学内の学部間争いになったと嘆いていた。
 大学は自分の進路に必要な学問を身につける場所だと思っていたが、世間ではそうではないらしい。家から通えて親を安心させる場所、というところか。
 
 夜間通える建築学科は名城大学だけ、他に選択肢はなかった。
 みんな仕事帰りに通ってくる。南山大学から非常勤で来ていた先生は「ここは良いな、私の車が高級車に見える」と言っていた。駐車場には軽トラやライトバンが並んでいる。とても大学の駐車場には見えない。私もオンボロな中古車で通った。
 3年になったある日、学生は製図室に集められた。
 「建築科の合格点が上がった。君たちの後輩は優秀だ、こんな汚い製図室では良い学生は育てられない」と言われ、掃除をさせられた。
 
 工業高校の講師を始めた30歳の頃、生徒に「先生、大学どこ?」と聞かれ「名城だよ」と答えると「ほー」と感心された。
 その頃には工業高校生には入りにくいところになっていて、トップの生徒だけ推薦枠があった。夜間高校から推薦で入ったので「ほー」と言われるほどのことは無いのだ。
 
 長引く建設不況で建築学科の偏差値は下がり続けている。土木系は「土木」という文字を消さないと学生は来ない。建築学科に来るべき学生が薬学部に行くという話しは、にわかに信じがたかったが、現実である。
 若者よ、建築界に来たれ!無からの創造、ダイナミックな造形。何より人間が面白い。
HOME   LIST   354号  356号