NA.home通信 337号
18.oct.2011

 わが事務所には今のところ後継ぎはいない。うちの子たちに継がせようと考えたこともない。彼らが幼いときに諦めた。
 年子の二人は双子のように育っていったが、自我が目覚めると全く違う個性を見せた。上の明日香は手先が器用で、見た物が描けるし、細かい作業も得意である。ところが全く立体が理解できていない。描く絵も実に平面的で、逆におもしろい。
 下の一生はブロック遊びが得意で、いろんなものを作っては壊し、三次元は本能的に理解しているようだ。でも紙に書くことが苦手である。同じように育ててもこんなに違うかと驚く。
 
 建築はちょっと絵が描けて、立体が理解できれば、あとは口八丁でいける。
 ところが明日香は立体がダメで、一生は描くことが苦手なのである。一方で得意な分野はかなり能力があるようなのだ。こうなればそれぞれの得意を伸ばすことが親のつとめである。この時点でNARUTA建築事務所は一代限りと決まった。
 
 先日一生が結婚式を挙げた。青山のレストランが式場。今流行のレストランウエディングである。
 新婦は凸版印刷、息子はクックパッドに勤めている。老舗と新興企業という対照的な両社だが、打ち解けてきて会場は良い雰囲気になった。結婚式で会社同士も繋がったような良い式であった。
 
 とりあえず一人片付いた。あとは姉の明日香である。美術館と画廊に一日おきに行っているがアルバイトなので収入は少ない。彼氏がまた食えない美術をやっていて定職がない。この経済的なものさえ解決できれば良いのだが。
 
 設計事務所も将来が明るいわけではない。少子高齢化で家は余ってくる。いっそのこと美術の仕事でもとって、Art&Architect事務所に変わろうか。そうなれば事務所を閉めなくて良くなるかも。なんて考えさせられる57才の秋である。
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