NA.home通信 315号
25.jun.2010

 「こんな仕事は出来ん」
 職人という人種はどんな職種にしろ否定から入る。次は「素人にゃわからん」と来るからたちが悪い。
 「本当に出来ないのか、ようやらんのかどちらだ」
 私が若い頃、職人たちに言った言葉だ。「やれないならやれる人に替えてもらう」
と言うと、「やれん事は無いけど」と消極的な言葉が返ってきて、次に現場に行くとちゃんとやってある。
「上手くできとるじゃん」と褒めると、「まあな」と微笑みが返ってくる。

 職人に良い仕事をさせる。それも技術者の仕事である。
 往々にして職人任せになり小さくまとまってしまう。それではダメなのである。
 
 剣道具を製造販売している青年と話した。
 父親が防具を作る職人で、最近は安い中国製品に押され、仕事をしていないそうだ。それなら一品物の高級品を作ったら?と思うが、材料が揃わなくなったから「出来ん」そうだ。
 ほら始まった、職人共通の捨て台詞。そのうちに「素人にはわからん」と来るだろう。
 「その通りです」とその青年。良い仕事をさせるのがあなたの仕事だよ、とアドバイスをした。

 日本から優秀な職人が消えつつある。どこに行ったかと思ったら、中国や東南アジアに行ってるらしいね。企業に勤めていた人たちが定年退職でフリーになったから、向こうの企業に誘われて現地の人たちに教えているらしい。やめてもらいたいね、スポーツ選手が外国で活躍するのとは訳が違う。
 
 高い技術を持ちながら、それを安く買いたたく。それが日本の悪いところ。良い技術はそれなりの対価を払わないといけない。だから良い物は高くなるのが当たり前だ。
 「良い物をより安く」こんな言葉が日本の産業を悪い方へ向かわせているのではないだろうか。


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