NA.home通信 302号
20.sep.2009

 映画は後の方で見た方が良いという意見もあるが、私は絶対前である。後の方に座ると損をしたような気さえする。自分より前に人の頭があるのがイヤなのだ。
 子どもの頃、映画館が近所で顔なじみだったので、兄は顔パスでお金を払わずに入っていたようだが、私はそれが嫌いで、ちゃんとチケットを買って入った。
 子どもが一人で大人の頭に邪魔されず見るには前の方に座るしかない。だいたい前から3列目で、都昆布をしゃぶりながら見ていた。好きな映画はクレージーキャッツと、駅前シリーズ。怪獣映画や若大将シリーズとの二本立てでかかっていたので、それらを見に行くと言って小遣いをもらって行った。本当は怪獣映画なんかに興味はなかった。
 
 しかし中学以降、家を引っ越したり、多忙な勤労学生だったりして映画に行くことを忘れてしまった。
 子どもが小さかった頃、日曜日なので妻の手を解放しようと、二人の子を連れて公園に行った。少し遊ぶと、暑い日で汗をかき、涼しいところに行きたくなった。すると、車窓から見た映画館の宣伝看板を思い出した。明石家さんまがタモリとのトークで絶賛していた作品である。
 懐かしい映画館に来た、何年ぶりだろう。クレージーキャッツの看板を見てウキウキしていた頃を思い出す。
 小さな子どもたちに最初に見せた映画「となりのトトロ」。アルテックのスピーカーはすごくいい音で、古い館内に響き渡る。映画の楽しさを十分に思い出させてくれた。

 子どもたちとアニメを見に行く時代は終わり、この頃は夫婦で50代割引を使ってときどき足を運んでいる。
 あの映画館は無くなってしまったが、相変わらず前の席で誰に視界を妨げられることなく楽しんでいる。都昆布は生ビールに変わったが。


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