NA.home通信 270号
4.nov.2007

 妻と富士五湖の方へドライブすることになった。
 御殿場の手前のサービスエリアでガイドブックを買い、それを頼りに走る。カーナビならぬカカァナビだ。方向音痴で老眼だからあまり頼りにならないが。
 天気は上々、富士山がよく見える。山中湖を一周し、忍野(おしの)へ。忍野八海はあとにして、ガイドブックに載っていたそば屋を探した。山を登ったところにあるその店は、意外に雰囲気が良く、あたりだった。
 そばを注文し、そば茶をいただいていると、壁の写真が目に入る。忍野八海の写真だ。
 
 以前来たのは30年以上前。あいにくの雨で富士山は見えず、日暮れも手伝って暗く、雨に煙る池と水車小屋を眺めて、これで天気が良ければ、と残念に思った。
 写真は僕らが見た場所と同じで、雪が積もり、富士山が綺麗に写っていた。モノクロの写真である。
 こういう景色になるんだ、しばし見つめていた。

 美味しいそばをいただいて忍野八海にくる。何か違う、観光客だらけ。
 お土産を買ったらタダになる駐車場に駐め、歩いていくが、池が見える前に御殿のような家々が目に入る。どの家も間口が10間以上あり、入母屋で軒は5尺以上張り出している。
 池の周りは土産物屋が建ち並び、子どもが「ウチの店は良いよ」と客引きをしている。池にはマスが飼われていて、ほとりの店でマス料理を出している。真新しい水車小屋ではそばを挽き隣の店で打ってる。
 あの写真の風景は、僕らが見たたたずまいはどこにもない。
 御殿が建ち並ぶ理由がよく分かった。田んぼ潰して駐車場や店を造り、楽をして金儲けする方法を見つけたのだ。
 その代わり昔の景観は無くなった。それで良いのか、飽きられるのはそんなに遠くない。
 少なくとも私はもう行かない。  

HOME   LIST     269号    271号