NA.home通信 191号

23.feb.2003
 人と挨拶して、その人が誰だったか思い出せない時ほど気持ちの悪いことはない。
 もう20年くらい前になるが3ヶ月思い出せなかったことがある。その頃から老化は始まっていたのか。
 従兄弟の結婚式でホテルのエレベータでその人と会った。非常に親しく話しをした人なんだが、思い出せない。交友関係を一人ずつたどってみる。まずお年寄りだからバイク仲間ではない。
 オーディオ仲間、建築関係、業者団体、、順番に相応の年代を洗ってみても該当者がない。奥歯に物が挟まったような気持ち悪さが何日も続き、禅寺に篭もっても滝に打たれても遍路をしても思い出せない。こんな時はバイクでぶっ飛ばすかと思った瞬間思い出した。バイク屋の隠居だった。最初に外したグループにいようとは。あのオヤジが背広なんか着てホテルにいるからわかんなくなる。いつものように丸首シャツで孫を抱いてりゃこんな苦しむことはなかったんだ。

 そういうことはよくある。
 昼のレストランで隣のボックスに綺麗な女性が座った。知っている人なんだけど思い出せない。
 バイク屋のジジイなら兎も角、美人が思い出せないようでは、俺も終わったかな、と悲しくなる。その晩やけ酒でも、と酒瓶に手をやったら思い出した。酒屋の看板娘だ。前掛け取って化粧しているからわかんない。

 今、というかここ数年わかんない人が居る。朝のウォーキングですれ違うシルバーのワゴン車に乗っている人だ。私の姿を見るとスピードを落とし軽くクラクションを鳴らす。
 たいていは緑地帯越しで眼鏡かけていないしガラスが光るので中が全く見えない。窓を開けて声をかけてくれればわかる(たぶん)のだが、その車も、朝早くその方向から車を走らせる人にも心当たりがないのだ。
 その人は私に挨拶をくれるのだが、私は毎回クラクションに驚くだけ。
 あー気持ち悪い。誰だかおせーて。

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