NA.home通信 149号

                 13.aug.2000


 一級建築士の国家試験は真夏に行われる。7月下旬に学科試験。それに合格した者が9月の製図試験を受けられる。
 合格率は約10%、学科で8割落とされ、製図で半分落ちる。
 安月給に耐え修行を重ねる設計事務所員にとって最大の関門であり、また、一発合格こそ実力を見せつけるチャンスなのだ。
 ここで一度でも失敗したり、受験産業に金を払って合格したのでは、その烙印は一生消えない。
 いかにも「簡単に受かった」というところを誇示する必要がある。

 一年余りの計画で密かに勉強し、建築士会主催の安い受験講習会を受け、いよいよ試験会場である母校の校舎に入る。
 学科試験は手応え十分。合格を確信し、帰りの電車では缶ビールを買い一人で乾杯。
 こうなりゃこちらのもの。製図で落ちるわけがない。
 交際中の妻の運転で、製図試験会場に乗り込む。
 時間一杯だと混むからと、30分前に迎えを頼んだ。自分から試験時間4時間半を30分切り捨てた。

 前から2番目の指定席に座ると製図道具を並べ準備OK。でも、なんか臭い。においは前の男の体臭らしい。
 試験が始まると男はいきなり汗をかきだした。ますます体臭は強くなり、脇の下から黄色い汗がシャツに染みてきた。
 その距離は私の鼻前方20cm。意識がボーっとする中、時間は経ち、でも何とか図面は出来上がってきた。
 この辺は安ウイスキーをあおりながら深夜に製図課題をこなしてきた夜学時代の鍛錬のたまもの。
 ガタガタと席を立つ音で気が付くと、もう提出するヤツがいる。見れば約束の終了30分前だ。
 手早く見直すとその悪臭から逃れたい一心で、提出して席を立った。
 真白に焼けたコンクリートの通路に出ると、熱い空気で深呼吸し、試験が夏であることを恨んだ。

 結果はどうだったって?あんなのものは意識が1割もあれば合格できるさ。


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