NA.home通信 113号

                 10.jul.1998

 高校1年の娘が学校から進路についてのアンケート用紙をもらってきた。
 まだ自分が本当に何になりたいか、考えがまとまっていないので書きにくかろうと用紙をのぞくと、そういうことで迷っているのではなく、答えにくいので考えている様子。
 アンケートの骨子は生徒の将来が何になるかではなく、高校卒業直後の事を主にきいている。

 「進学か就職か選ぶようになっているけどどうしよう」
 「修業とか弟子入りというのは無いのか?」

 将来の進路でも例に上がっているのが会社員、公務員、せいぜい看護婦止まり。
 どうせ例なのだからデカく、大学教授とか外交官、裁判官、芸術家、大会社経営などと書けないのか。
 あんまり腹が立ったので、保護者が書く欄に「進路指導は夢を摘み取るところから始めるのか」と皮肉ってやった。

 私も工業高校の非常勤講師をやっている。
 もう数年前になるが、硬派の生徒がいて、授業中ノートも教科書も出さない。といって居眠りも無駄口もせず、腕組みをしたまま一番前の席で授業を聴いていた。
 学年末が迫ったある時、その重い口を開いた。

 「先生、俺、大工になりたい」
 「お前なら、きっと良い棟梁になれるぞ」
 「でも、求人がないんだ」

 紹介してやると言ったのだが、普通の会社員の家庭で、求人票のコピーとか、有名な会社とかでないと、親を納得させられないと言うのだ。
 たぶん彼は大手の建設会社に入ったと思うが、彼の性格からすると、組織の中に収まっているようには思えない。

 進路指導というが、生徒を片づけているだけでは困るのだが、学校側だけの問題ではとても処理できないことだ。


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