NA.home通信 309号
27.feb.2010

 その店は家を建ててる現場の道を挟んだ隣にあった。小綺麗で味は良く、値段も相場で高くない。でも来る客は少ない。
 私はこの店主の父親を知っている。勤めていた和菓子屋が店を閉めたのを機会に、官庁街に小さな喫茶店を出した。店の狭さを出前でカバーし売上を上げた。和菓子職人まんまの格好で、コーヒーを出前している姿を何度か目撃した。そのうち店も大きくなり、お金も残しただろうと思う。
 
 小学校のPTAの年度末は、次の役員を決めるのが最大の仕事。会長、副会長を含め、10人余りの役員を選ぶというか頼んでくる。
 その中でこの店主の名前が上がった。店の営業はあるが考えようによっては可能である。年度初めの4月にスケジュールを組めば半分以上終わる仕事だし、委員会を店でやる方法だってある。
 「私が頼んできます」と女性役員が中心となって話しに行った。その店を結構使っているらしい。
 でも結果は「NO」。申し訳なさそうに報告されたが、失ったのは役員ではなく、その店の新規客開拓のチャンスと常連客数名である。
 
 信頼というもの、築くのは難しいが崩すのは簡単だ。例えば祭りの寄付。やってみればわかるが、集めるのはイヤなものである。アポ無しで玄関をノックし、払う理由のない金をもらってくる。
 寄付を断ることは簡単だが、それによる損害はどれほどか計り知れない。おそらく10倍の広告費を使っても取り戻せないだろう。
 
 PTAで役員を二年務めたが、そのときからの付き合いが今でも続いている。この通信の読者も数名。
 どうしてこんなチャンスを断るのだろう。私には理解できない。

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