NA.home通信 134号

                 26.sep.1999


 小規模な鉄骨屋や工務店に図面を出すと、ちゃんと構造計算をしたのに文句を言われることがある。

 「ワシの経験じゃこんな柱は太すぎる」とか言うのだ。

 「アンタの作った建物は伊勢湾台風より大きな台風を経験したのか、三河地震より大きな地震を経験したのか」と言ってやるのだが、そういう連中は今まで幸運にもその経験が無いので私の言う意味が分からない。

 もちろん私も経験がない。だから計算をして最低の安全を法律や構造基準をもとに確認している。それしか頼るものがないからだ。でも、場合によってその基準が甘いことがあるので気を付けなければいけない。

 たとえばプレハブ住宅は建築基準法で計算するとアウトになる。それは耐久消費材という考え方の通産省の基準がまかり通っているから建築基準法の生命財産を守ると言う理念がそこにはない。それと木造在来工法。これは既存の権利を保護しているのか実に甘い。素人の勝手な間取りでも、確認申請は下りる。あとは自主性に任されているのだが、前出の経験主義的工務店などが作っていたらどうだろうか。

 「地震が来ても4寸のヒノキ柱だから大丈夫」

 ゴム底の靴だから雷は落ちないというのと同じくらい根拠がない。

 「学びて試さざるは、すなわち暗く、試して学ばざるはすなわち危うし」孔子の言葉だったかきわめて曖昧な記憶だがこんな言葉があった。「実践の裏付けのない学問はダメで、学問の裏付けのない経験は危険だ」という意味だろう。

 建築技術者というとすぐ大工さんをイメージする。彼らは技能者であって、技術者=エンジニアなのだから建築士がそれに当たる。建築士制度が出来て50年、もうそろそろ認知していただいてもいいのだが。


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