NA.home通信 110号

                 5.may.1998

 もう10年ほど前になるが、桧材を加工していわゆるワッパを作っている青年と話をしたことがある。
 どう見ても斜陽産業に思えるので将来の展望を聞いたら以外にも
  「ものすごく明るい」というのだ。

 彼曰く「この仕事をやっているのは全国的に見ても高齢者ばかりで50歳台の人はいても30そこそこでこの技を継承しようとしているのは自分だけだろう。グルメブームで蒸籠の注文は多いし、他のものに変わることはない。そのうち日本中の蒸籠は自分が作ることになる」と強気だ。

 事実、これらの伝統産業は継承者が少なく、残っているところに注文が集中しているようだ。半田にある提灯屋のおやじが「やる人がいないから忙しい」と言っていたのを思い出す。

 また、気が付かないところでシェアを独占している品物がある。
 たとえば「輪ゴム」。これはオーバンドしか見たことがない。
 これから将来も輪ゴムに変わるものは出ないだろう。でも一箱200円程度のシェアを割ろうと、ゴムを輸入して機械を開発して…なんてやる人もいないだろう。
 束子もそうだ。
 以前「亀の子束子」以外のものがあったような記憶があるが、今は元祖亀の子一本だ。これもパームを輸入して…なんて今さら考えることは誰もしない。

 不景気もこんなに長く続くと安定してシェアを独占している商売がねたましい。
 設計事務所もワッパ職人のように淘汰されないと安定しないのだろうか。
 でも我々の年代はまだ淘汰される側だろうね。あーーやだやだ。


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