弾性域と塑性域
成田完二の 勝手にコラム   耐震 013
 昭和56年6月に施行された新耐震基準、木造だけではなく、すべての建物の構造基準が大きく変わった。
 私が一級建築士を受験したのは昭和55年だったのでヤマが張りやすい。専門外の塑性設計を勉強していたので役に立った。 塑性設計とは、構造体が壊れていくときのメカニズム。日常起こるべき中地震は弾性域で設計し、上回る大地震の際は塑性域で設計する。
 その考え方が入ったのも新耐震基準である。

 木材は弾性域と塑性域の境界は曖昧だが、鋼材ははっきりしている。
 弾性域の頂点に降伏点があり、それ以上に力が加わると、塑性域に入り、変形は戻らない。
 建物全体が塑性域に入るとき、最大の耐力を発揮し、ゆっくりと崩壊に向かう。ゆっくり崩壊することで人命を守ることが出来る。建物の耐震性と一言で言うが、弾性域が大きければ、無被害か少ない被害で済む可能性が高く、ちょっとした地震で塑性域に入ってしまったら、その建物はそれで使えなくなる。

 設計する際、丈夫な建物を要求されたら、構造体を余裕のあるものにし、採算を望まれれば、どうしてもその余裕は無くなる。
 建築コストに直せば10%足らずだと思うが、それで弾性域の幅が変わってきて、地震に強い建物と、そうでないものとが出来る。

 建物に経済性を追求すれば、耐震偽装が生まれ、機能性やデザイン性を豊かにすれば、文化が育つ。
 曲がり角にある建築界、今一度見つめ直し、余裕のあるものに転換してほしいものである。
全国商工新聞 July 2022
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